ウォーキングをしながら寮歌を口遊む。今朝は、旧制第一高等学校寮歌「嗚呼玉杯に花うけて」だ。第一高等学校寮歌の代表的な寮歌だ。寮歌中の寮歌だ。「嗚呼玉杯」は「紅燃ゆる」「都ぞ弥生」を加え、日本三大寮歌と呼ばれている。

私が卒業した金沢大学附属高校は、私が高校生だった昭和40年代前半、今から半世紀前、夏休みに校庭でファイヤーストームの定例行事があった。そのおりには、火を囲んで旧制高等学校の寮歌を歌う。第一高等学校から第八高等学校のナンバースクールの寮歌、札幌農学校の寮歌等々。毎日、昼休みには校舎の屋上で、多くの生徒が寮歌の練習をしたものだ。

私はロマンチックな第三高等学校(現、京大)や札幌農学校(現、北大)の寮歌を好んだ。
第一高等学校(現、東大)の寮歌は天下国家を背負う権力者志向の歌のような気がしてあまり好まなかった。そんなこともあり、大学は京大が第一志望だった(しかし、担任の米谷先生に東大を薦められて、祖父の想いもあって東大を受験した)。

私は、ファイヤーストームのリーダーであったこともあり、全ての寮歌を誦んじた。今朝はなぜか、その中で、今まであまり好まなかった「嗚呼玉杯に花うけて」を歌っていた。

嗚呼玉杯に 花うけて
緑酒に月の 影やどし
治安の夢に 耽りたる
栄華の巷 低く見て
向ヶ丘に そそり立つ
五寮の健児 意気高し

芙蓉の雪の 精をとり
芳野の花の 華を奪ひ
清き心の 益荒雄が
剣と筆とを とり持ちて
一たび起たば 何事か
人生の偉業 成らざらん

濁れる海に 漂へる
我が国民を 救はんと
逆巻く波を かき分けて
自治の大船 勇しく
尚武の風を 帆にはらみ
船出せしより 十余年

花咲き花は うつろひて
露おき露の ひるがごと
星霜移り 人は去り
梶とる舟師(かこ)は 変わるとも
我が乗る舟は とこしえに
理想の自治に 進むなり

行途を拒む ものあらば
斬りて捨つるに 何かある
破邪の剣を 抜き持ちて
舳に立ちて 我呼べば
魑魅魍魎も 影ひそめ
金波銀波の 海静か

昔日、東京帝大を卒業すると高級官僚を経て国を司る政治家を志望する人たちが多くいた。
世のため人のために生きることは、天下国家を論じることだと思っていた。高級官僚から政治家、それが延いては一国の総理大臣を目指すことが世のため国のためと思っていた。 しかし、そうではない。一介の市井人であろうと、天から世のため人のために生きるミッションを授かって生まれてきているのだ。

私は一介の市井人であるが、草莽の士でありたいと思う。そう思って「嗚呼玉杯」を口遊む。

第三高等学校の「紅燃ゆる」や札幌農学校の「都ぞ弥生」もいいが、今の私には「嗚呼玉杯」の心意気を持って生きることが求められているのだ。

そう思って、何度も何度も口遊む。その志やよし。後半生は「嗚呼玉杯」の心根で生きようと思う。

小林 博重